主な認知症の症状への対応「アルツハイマー型認知症」「脳血管性認知症」

認知症にも色々な種類や症状があることがわかってきましたが、それぞれに合った対応があるのをご存知でしたか?
私も介護業界で働いたり、認知症ケア専門士にならなかったらわからないまま、全部一緒の「認知症」と一括りにして、認識していたと思います。
この対応次第でBPSD(周辺症状)が軽減され、認知症患者もご家族もお互いが過ごしやすくなるのです。
ここでは主な認知症の種類別に、主な症状への対応を体験をもとに実例を挙げながら説明をしていきますね。
主な認知症の症状への対応
【アルツハイマー型認知症】
現場では様々な対応方法がありますが、ここでは主な対応について記載します。
・同じ話を良い意味で「聞き流す」
同じ話を何度も繰り返し話したり、聞いたりします。家族は「もう何度も聞いた。」「さっきも説明したのに、何度も同じことを聞いて。」とイライラすることも多いですよね。
でも本人は本当に忘れてしまっているので、何度も話したり、聞いたりしています。
本当に忘れているので何度も聞かないと不安になったり、心に強く残っている話を何度もしているのです。
家族の「何度も…」とイライラしている気持ちは、本人に伝わってしまい「何故か怒られている、イライラされている。」と不快な思いになるようです。
本人にとって不快な思いなので、BPSDが出現したり、もっと不安になって何度も聞いてみたり…と悪循環になることも多いです。
出来れば家族も同じ話に根気よく付き合うことが良いのですが、なかなか大変ですよね。
そんな時は、本人の興味のある話題にさりげなく変えてみたり、良い意味で聞き流しながら違う事へ興味を向けてみるのも良いと思います。
介護者の心がイライラで満タンにならないようにすることも、大切ですよね。
・忘れる事には「メモ」
まだ初期の物忘れや認知症の記憶障害には「メモ」が効果的です。
忘れる事で周囲に迷惑がかかり、責められることも回避でき、本人の自信にもつながります。
担当利用者も初期のアルツハイマー型認知症のかたは、家族にメモを目につく所に貼ってもらい、今日の予定、やる事を確認しながら安心して過ごされていました。
独居のかたも、ヘルパーやデイサービスの職員、ケアマネジャーなどにメモを貼ってもらい「薬を飲む。今日はヘルパーが来る日。買い物頼む。」と短い言葉で、書いたメモをいつも座る食卓前に置いてありました。
・生活しやすい環境づくり
アナログ時計がわからなくなることが多いので、デジタル時計に交換したり、トイレの場所がわからなくなって失禁してしまうこともあるので「トイレ」と張り紙をするなど、少しの工夫で随分と本人が生活しやすい環境になり、自信も回復してきます。
・「徘徊」の対策には、周囲に協力を求めましょう
もしもの時に備えて、名前や連絡先を名札のように服やカバン、杖につけたり、今ではGPSなどの徘徊に対応できる機器があるので、ポケットやカバンに入れておくのも良い考えです。
靴に内臓されていたりする物もあるので、本人も抵抗なく利用できると思います。
どんどん新しい機器が発明されていますので、担当のケアマネジャーに相談して福祉用具のカタログを見せてもらうのもいいですね。
そして、一緒に徘徊に同行したりすることも良いです。
しかし、仕事をしていたり、家事や育児をしている時は大変ですよね。
そんな時は、ご近所に事情を話して見守りや、出かけているのを見かけたら連絡してもらうという方法もあります。
担当利用者のご家族も、ご近所に事情を説明して連絡をもらえるようになってから、気分的にとても楽になったと話されていました。
昔は近所には隠すようにして…という風潮があったようですが、今は認知症への理解者も多くなりました。
近所の人、お店、スーパー、交番、地域の民生委員などなど、みんなに力を貸してもらうのも介護の抱え込みを防止する意味でも良いと思います。
・否定をせずに、話を合わせてみましょう
物盗られ妄想や帰宅願望、幻視などが起きている時は気持ちはもう「その気持ち」になっています。「違う」「そうじゃない」「見えていない、あなたはおかしい。」などと否定をすると、余計に興奮し自分の思いが理解してもらえない!と、話が聞けない状態になってしまいます。
ご家族も大変だと思いますが、少し話を合わせてみましょう。
例えば、物盗られ妄想の時は一緒に探してみる。ない時は、少し休憩して落ち着いてから、もう一度探したり、探す場所を変えてみる。
本当にない物を探すこともあるとは思いますが、まずは一緒に探してみてください。
そして、気分転換をしていたりすると気持ちも落ち着いて、何か違う方向へ意識が向かっていくことも多いです。
・介護拒否には無理強いしない方が、上手くいくようです。
例えば、トイレへ行く時に声をかけても「行かない。出ない。」と拒否されることも多いですよね。
本人は「今は立つのが億劫だな。テレビ見ていたいな。トイレまで寒いな。腰も少し痛い気がする…」という気持ちもあり、拒否することもあります。
「トイレへ行って、気持ちよくテレビを見ましょう。」「立つのをお手伝いしましょうか。」「私も行くから、一緒に行きませんか?」と声をかけると、スムーズに行けることもあります。
介護施設では、仲の良い入居者が一緒だと行ったり、介護士が「私、トイレへ行きたいけど、一人だと寂しいからついてきて欲しいです。」と言ったりすると、皆さんとても優しいので「あらー、若いから寂しいのかねー。しょうがないねー。」とついてきて下さって、そのついでに排せつされるということもよくあります。
お風呂でも同じような感じで、声掛けを行ってみても良いと思います。
無理強いすると、お互いに嫌な気持ちが残りますよね。
強い拒否がある時は、何日も入浴していないとか、トイレへずっと行っていないなどの事情がない以外は「ま、今回はいいかな…次に誘ってみよう。」くらいの気持ちの持ち方が、本人にも介護者にも気持ち的に良い気がします。
・お互いに気持ちよく過ごせるようにしましょう。
嫌な気持ちや、不快な事、不便に思うことは気持ちに残り、周辺症状(BPSD)の悪化にも繋がります。本人も介護者も、お互いに気持ちよく過ごせるように、不安な事や困り事は介護保険制度に頼ってみましょう。
住宅改修や福祉用具を導入するだけで、便利で安心して暮らせることも多いですよ。
要介護認定を受けていなくても、市町村の介護課や、地域包括センターでは相談にのってくれますので、どんどん活用していくと良いと思います。
【脳血管性認知症】
主な症状としては
①まだら認知症を発症しやすい。
②意欲がある時とない時が交互に現れやすい。
③感情コントロールが出来にくくなる(感情失禁が起こりやすくなる。)
④認識することが困難になったり(失認、失行)、言葉が出なくなったりする(失語)
などです。
主な対応としては以下のものがあります。
・周囲の理解と受け入れ
脳血管性認知症の場合、初期の段階では自分で「忘れている…」と気が付いていることもあります。
この時に、本人の気持ちの葛藤もあると思いますので、家族や周囲の本人んの気持ちの受け入れが大切です。
また急に出来なくなる事、言葉が上手く出ない事、感情がコントロール出来なくなることになり、本人も不安になっています。
本人の気持ちを汲みながら、出来ない事を支援していくことが必要ですね。
・必要な時に必要な援助を行う。
脳血管性認知症は、一日の中で出来ていたことが出来なくなったり、出来るようになったりということが起こります。
これは脳の血流の問題なので、決して甘えたり怠けているのではないのです。
現在の介護保険では【自立支援】という言葉があり、介護の現場では「自分で出来ることは自分で行うように。不必要な介助はいけません。」と一応、習いはします。
なので、あまり介護経験のない家族や、介護や看護職員は「必要以上に介助をすると、出来ることを奪うことになるから…」と介助を行わない事もあります。
でも、この脳血管性認知症は甘えて「出来ない」や「出来なくなってしまった。」ではなく、脳への血流によって出来る時と出来ない時があるのです。
一概に「朝、出来ていたでしょ。自分でしてください。」と、間違った自立支援を押し付けることは避けたほうがいいです。
以前働いていた職場でも、脳血管性認知症のかたが「歩けない。」と看護師に車いすでの移動を訴えたのですが、「朝、歩けていましたよね。自立支援です。頑張って自分で歩いてください。」と看護師が言いました。
その入居者は、辛いながらも歩いていて途中で転倒し、骨折してしまい歩けない状態となってしまったことがあります。
その入居者ご本人から「私の嫌いな言葉は【自立支援】。」と、退院されてから私に教えて下さいました。
介護保険上の「自立支援」という言葉は便利な言葉ですが、誰にでもどのような時にでも、どのような状態の人にでも一括りで当てはまるものではないですね。
【まとめ】
今回は主な認知症である「アルツハイマー型認知症」と「脳血管性認知症」の対応について書いてみました。
認知症という症状には共通したものもあれば、独自の特徴や対応の仕方があることがわかります。
認知症の種類によって対応は様々であることから、きちんとどの認知症なのかを診断してもらい、適切な対応が大切です。
それぞれの認知症に合わせた対応と、本人の昔からの性格や生活習慣も合わせての対応が出来るといいですね。